音符の上に横棒を引いたテヌートですが、どんな感じで吹かれていますか?
ただ単に長くというのではなく、なんとなく粘った感じとか、引きずった感じで吹いている気がしますが・・・
世界には似て非なるものがあります。音楽用語の世界で言うと、それはテヌートとソステヌート。
音楽辞典には次のように書かれています。
テヌート :音を保持して、音の長さを充分に保って演奏すること
ソステヌート:音を保持して、各音符を充分に
なんだか同じような説明でよくわかりませんね。これでは意味を同じように捉えてしまっている方も多いと思います。
実は、この2つの音楽用語には正反対の意味が存在しているのですよ。
まずはテヌート。
テヌートはテネーレという動詞が原形です。テネーレには「逃げないように引き留める、押さえておく」、「落ちないように、動かないように手で押さえる」というような意味があります。
「ちょっと! このバッグを持っててくれない?」 こういうとき、「バッグをテヌートして!」と言っているわけです。バッグをテヌートするとき、普通は上から押さえるように持ちますね。
この上から押さえる様子、それがテヌートです。
はしごのような不安定な場所を登るとき、「動かないように、手で押さえててね!」と言います。
こういう場合は「はしごをテヌートする」ということになるわけです。
きちんと押さえて、ある一定の状態を保つようにするのがテヌートです。
では、それに対して、ソステヌートってどんな言葉なのでしょうか。
ソステヌートの原形の動詞は <下から支える> と言う意味を持つ動詞ソステネーレです。
ソステヌートそのものにも <下から支えられる> というニュアンスが残っています。
テヌートは上から押さえましたが、ソステヌートは下から支えるわけです。
学費などを援助して費用を支えてあげるのもソステヌートですし、精神的に苦しんでいるグラーヴェな友人などを支えるのもソステヌート、橋は橋げたによってソステヌートされていますし、植えられたばかりの木は添え木によってソステヌートされています。
言葉としては、結果的に両方とも <保つ> となりますが、その保ち方はまったく逆なのです。
音楽をテヌート~ソステヌートしていく感覚・・・それにはそれぞれの演奏者が、イメージをふくらませる必要がありますが、テヌートが音符をしっかりつかみ、しがみついている様子を表すならば、
ソステヌートは下から音を支えるイメージとなります。
大事に支えるのですから、いきおいテンポも <注意深く進む速度> となります。したがって、<ズンズンと速く進む> ことはできません。何かを支えて歩くと、何も持たずに歩くよりも速度が落ちるのと似ています。
さあ、皆さんはこのふたつの音楽用語の違いをどうやって演奏に反映させますか?
「これで納得! よくわかる音楽用語のはなし―イタリアの日常会話から学ぶ」
関 孝弘, ラーゴ・マリアンジェラ (全音楽譜出版社) からの抜粋、要約
(tomo)
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