リタルダンドはアッチェレランドの反対ということですが・・・


イタリアから列車でパリに行こうとしたときのことです。
夜中の1時過ぎの夜行列車に乗ろうと駅につくと、駅の発着案内に <パリ行きの電車は2時間遅れで到着> との表示がありました。寒い駅で2時間待つのはつらいので、仕方なく家まで戻って時間をつぶし午前3時に駅に戻ったところパリ行きの表示がありません。駅員に訊ねると「もうとっくに出発したよ」と言ってニコッと微笑みました。
イタリアの電車はいい加減で時刻どおりに到着することはあまりありません。出発が遅延することは日常茶飯事と知ってはいましたが、まさか出発予定時刻よりも早く出発するなんて!

汽車は確かに2時間遅れで走っていたのです。ただし、ある時点までは、です。この運転手、その2時間の遅延を取り戻そうと、必死に加速(アッチェレランド accelerando) して速く(ヴェローチェ veloce )走り続けたようです。そしてその結果、予定時間よりはるかに早く(プレスト presto )駅に到着し、そのまま出発してしまった・・・というわけなのです。

一般的に、予想された時間より遅れる場合にリタルダンドが使われます。
電車の到着などが遅れる場合はまさにリタルダンド。もちろん到着が遅くなった理由は電車のスピードが遅かったからなのですが、リタルダンドには走行速度が遅いことを意味するニュアンスはありません。
あるのは、<到着時間が遅れた> という事実関係だけなのです。


ですから、学校の授業開始時刻に遅刻するのもリタルダンド。これも単に <時間に遅れる> ということを意味しています。また、「仕事がリタルダンドする」というと、終業時間が遅れるという意味。ここにも「仕事のスピードを落とす」という感覚はありません。
このニュアンスこそがリタルダンドを考える際のポイントです。

 「これで納得! よくわかる音楽用語のはなし―イタリアの日常会話から学ぶ」
     関 孝弘, ラーゴ・マリアンジェラ (全音楽譜出版社)  からの抜粋、要約

        ▼△▲▽▼△▲▽▼△▲▽▼△▲▽▼△▲▽

「だんだん遅くなる」としても、速度が遅くなるのではなく、その拍、拍(拍のあたま)が遅れていくという感覚なんでしょうか。

tomo