今回は、Allegro Presto です。どう違うんでしょうか。

Allegro
空港へのタクシーで、「速く、速くー!! 飛行機に乗り遅れちゃう」ということで、「運転手さん、アッレーグロ、アッレーグロ!!」といっても運転手はどこ吹く風。一向に速く走ってはくれません。
イタリア人はアッレーグロをふつう <陽気に>、<楽しい>、<明るい> といった意味で使います。
だから、タクシーの運転手が速く走ってくれないのも当たり前。「陽気に行きましょう、楽しく明るく!!」 と言っていたのですから。

では、なぜ音楽では「アッレーグロ=速い」という意味になってしまったのでしょうか。
ちょっと陽気で楽しいときの心の状態を想像してみてください。ウキウキ、ワクワク、ドキドキ、そんな心持ちには、快活で心地よい <速さ> が伴っているはずです。
かの楽聖ベートーヴェンも「アッレーグロ=速い」というイメージが出来上がってしまったことに悩み、「アッレーグロという言葉は速いという意味ではない」と、憂慮している手紙を出版社に送っています。
悩みはいつの世も同じなんですね。

イタリアでは、明るくても同時に軽さを伴わない表情はアッレーグロとは言いません。
この2つの要素(明るさと軽さ)が同居していることが大切です。


Presto
「はやい」という言葉には二つの意味があります。「早い」と「速い」です。
ここで取り上げるプレストは前者の「早い」という意味なのです。
日本の音楽用語辞典では、プレストもアッレーグロも共に「速く」と訳され、時としてプレストは、アッレーグロをさらに強調する意味で「急速に」、「快速に」などと表現されていますが、
イタリアでは、「早さ」として使われる場合がほとんどなのです。

プレストは運動自体の「速さ」を表す言葉ではありません。例えば、「朝早く本を読む」、「仕事が早く終わる」といったような場合に日常よく使われます。
では、どのように演奏するのかというと、基本的には「速く」演奏することが必要です。
「えっ」と思わないでくださいね。

イタリア人の感覚で言えば、プレスト=所要時間を短縮する → その結果として運動速度も速まる、ということになるわけです。
言葉の遊びのようですが、プレストには、このような時間の感覚が根底にあるのです。


 「これで納得! よくわかる音楽用語のはなし―イタリアの日常会話から学ぶ」
     関 孝弘, ラーゴ・マリアンジェラ (全音楽譜出版社)  からの抜粋、要約


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もう7、8年前、門下生発表会で、私はルイエのソナタを演奏しましたが、そのときに、「アレグロと書いてあるけど、イタリアでは明るいという意味であって、速いという意味ではないそうなので、演奏が速くなくても許してください」と前置きをして演奏したのを思い出しました。 (^_^;

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